2022.01.14
こんにちは。2022年1月15日から東京都庭園美術館で開催の「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム」展のプレス内覧会に行ってまいりました。
車寄せがあると「邸宅」という言葉がピッタリと収まる。
こんにちは。
入ってすぐの重厚な大広間には、ダリの抽き出しのあるミロのヴィーナスと炎の女。右奥には玉虫色に輝くヤン・ファーブルの甲冑カラーが。
展示風景より、手前はサルヴァドール・ダリ 炎の女(1980)諸橋近代美術館蔵
人々の意識の深層にまで影響力を及ぼした20世紀最大の芸術運動であったシュルレアリスム。
本展では、シュルレアリスムの感性に通ずるような作品群にも注目し、現代の私たちからみた<奇想>をテーマに、16世紀の歴史的なファッションプレートからコンテンポラリーアートに至るまでを、幅広く展覧します。シュルレアリスムがモードに与えた影響をひとつの視座としながら、その自由な創造力と発想によって、モードの世界にセンセーションをもたらした美の表現に迫ろうとするものです。
ヤン・ファーブル(曾祖父は「ファーブル昆虫記」で知られるジャン・アンリ・ファーブル)の甲冑カラー。ヤン・ファーブルは、死と変容をテーマに玉虫の鞘翅を使用した作品を作り続けています。「ファーブル昆虫記」を読んで育ったので強烈に惹かれる作品。
ヤン・ファーブルといえば、ブリュッセルの王立美術館で見た玉虫たちを思い出す。
工事中の建物がマグリットになっていたのが印象深かった2008年のブリュッセル。
2015年にエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催された「ヤン・ファーブル Tribute to Hieronymus Bosch in Congo」展も思い出されます。
ルネ・ラリック制作のシャンデリア、扉上部にあるレイモン・シュブのタンパン装飾、イオニア式柱頭をもつ柱など、美の密度が高い大客室には「髪」。
ガラスケースの中は、夥しい髪の毛が三つ編みで編まれた小谷元彦のドレス。京都出身の氏が幼少期に東本願寺で見た「毛綱(麻と髪の毛を撚り合わせて編まれた綱)」が創作の源になったそうです。
小谷元彦 ダブル・エッジド・オヴ・ソウト(ドレス02)(1997)金沢 21世紀美術館蔵
マルジェラのレーヨン・ジャージ製のまだらブロンドヘアーのドレス。
そして纏足鞋。小さな足が美しいという美意識に基づき、幼児期より足に布を巻きつけ著しく女性の足を変形させた中国の奇習「纏足」。その理想のサイズはわずか長さ10cm、幅5cmだという。とても息苦しくなった。
会いたかったのがスキャパレッリのアポロンのケープ。刺繍はルサージュ。
ココ・シャネルが強烈にライバル視したというデザイナー、エルザ・スキャパレッリ。
父は王立図書館長を務めたオリエント学者、伯父は高名な天文学者というローマの裕福な家庭で育ったエルザ・スキャパレッリ。自由奔放でエキセントリックな感覚の持ち主だったエルザは、メゾン・ルサージュの刺繍が施されたジャン・コクトーと制作したドレス、ダリとのロブスタードレスなど、次々にセンセーショナルなスタイルを生み出します。(記事「スキャパレリ クチュールコレクション SCHIAPARELLI Spring 2018 Couture Collection」)
ルネ・ラリックの照明器具《パイナップルとザクロ》に照らされた大食堂にスキャパレッリ。
ベルトラン・ギュイヨンによるSchiaparelli Spring 2016 Coutureの蜘蛛ドレスも素晴らしかった。
大食堂の壁には、レオン・ブランショのデザインによる植物文様。フランスから送られてきたコンクリート製のこのレリーフは、到着時にヒビが入っていたため日本で型を取り石膏で作り直し、銀灰色の塗装が施されたそうです。
今回の展示は、アール・デコ様式の重厚な装飾と展示物が相まって、とても優美な雰囲気を醸し出していました。
階段を上って
サルヴァドール・ダリの回顧的女性胸像には、ミレーの晩鐘に描かれている二人の人物がフランスパンの上で頭を垂れています。30年前にフィゲラスのダリ美術館で見て以来だわ。久しぶり!アルバムと共にヘタクソなスケッチも引っ張り出してきた。
この二階広間のラジエーターレジスター(暖房器用カバー)には日本の伝統模様である青海波が使われ、壁と使い込まれたソファーの緑が美しかった。
合の間には、枝や苔、ナメクジのようなものが蠢く1950年の帽子。美しい。
美しい漆喰の天井を持つ若宮居間には、ハリー・ゴードンのポスタードレスに
ダリが初めてカバーを手がけたVOGUE誌。
青白い手にピンクの静脈が浮き出た手袋。
血管のような珊瑚、珊瑚のような血管。ヴァレンティノの2013年クチュールのコートを思いだす。
山茶窯製陶所製のモザイクタイルの床が美しかった第一浴室は、おもに殿下が使用したそう。浴室を通り過ぎ
妃殿下居間へ。ヴィヴィアンのミュールとマルジェラのトルソージャケットに目がいきました。
靴を履いても裸足。肌の質感そのままのような柔らかいレザー製のミュール。
マネキン・メーカー、ストックマンの人台(トルソ)をかたどったジャケット。人はそれぞれ全く違う体つきであるにもかかわらず、規格化されたサイズの既製服に身を委ねる現代人を揶揄するかのような作品である。
優美でモダンな北の間には、マルジェラの額縁ネックレス。
一階に降りて
百足や蝙蝠、蛇の帯留を凝視し、「極小から極大まで、なんて繊細で大胆なの!日本の美意識って素晴らしいわー」と呟きながら、
庭園を愛で、
杉本博司氏がアドバイザーを務め、建設された新館へ。
串野さんのキメラな鳥靴に会えました。
宇宙の摂理のなかで帰結するそれぞれの生命体の、そうならざるを得ない最終形あるいは最新形としてのフォルムを「ファイナルデザイン」と呼び想像の糧とする。
串野さんも私と同時期にVOGUEでブログを書かれていて。「ブログ終わっちゃいましたねー」と始まって、お話を伺った。一番好きな作品と一緒に撮らせてとお願いしたら
この二羽でした。「雌雄があるんですか?」との問いに「孔雀のようにゴージャスにアピールする方がオスなんです」と。
アイボリーの二羽も手前がオスなんだそう。若冲のあのハートの鳳凰に刺激されたという作品。
自然に恵まれた広島県因島で生まれ育った串野さん。在るだけで完全・完璧である生物のかたちを靴の上で出会わせ、人が履くことでハイブリッドを生み出す。靴というアイテムを選んだのは「彫刻的で自立しているから」だと。
リー・アレキサンダー・マックイーンのアルマジロシューズにも、若冲にもインスパイアされたという串野さん。表面的になぞっただけではなく、一旦自分の内側で蛹のようにドロドロに溶かしてアウトプットされている。だから見る者の心に刺さる。
Alexander McQueen Spring 2010
「気持ち悪くて良いわ〜」と言ったら「ありがとうございます!最高の褒め言葉です!」
最初の作品にはエネルギーが詰まってるね。生き物たちを視て「美しい」と思う気持ち、それらを「纏いたい」と感じる素直な想い。
奇想。想像はどこか遠いところにあるものではなく、自分の一部であるように思う。人の感知できる範囲は限られていて、実在とか現実ってきっと思っているより曖昧。当たり前と信じ込まされていることから逃れて、自分の思考に制限をかけなかった人たちの着想が「奇想」であり「エキセントリック」なのかもしれない。(記事「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」)
宮内省内匠寮技手の大賀隆がデザインを手がけた床のモザイクと
目黒駅までの道のりも楽しみました。
是非この機会にエキセントリックな感性に触れてみて下さい。
会期:2022年1月15日(土)~2022年4月10日(日)
会場:東京都庭園美術館(本館+新館) 東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10:00–18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日
*ただし3月21日は開館、3月22日(火)は休館
オンラインによる日時指定制です。
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