「まれびとと祝祭 」@高島屋史料館TOKYO

2022.03.31

こんにちは。企画展「まれびとと祝祭ー祈りの神秘、芸術の力―」(3月2日〜 8月21日)を観に、高島屋資料館TOKYO(日本橋)に行ってきました。

まれびととは、民俗学者であり国文学者でもあった折口信夫(1887-1953)が提唱した概念です。折口はそれを、祭祀などに、超現実の世界から現実の世界を訪れて、またもとの世界にかえってゆくという、人間を超えた存在としています。

この石川直樹氏の写真、鹿児島県十島村悪石島の「仮面神ボゼ」を見た瞬間、身体の一部を持って行かれたような感覚を覚えました。展示が始まってすぐ見に行ったのに、ずっと書けなかった。多分、私が深いところで「信じているもの」に触れたからだと思う。(石川氏の写真のみ撮影可能)

そもそも時間や空間を一新する強大な力を持つまれびとは、もたらし/追いはらう、という両義牲を持つ存在でもありますが、それはすなわちまれびとが、異物としてもたらされた病でもあり、そしてその病を彼方へ追いはらって救いをもたらす神でもあるということを意味しています。

ボゼ〈鹿児島県十島村悪石島〉お盆の最後、旧暦7月16日の夕刻の来訪神行事。異形の面をかぶり、体にはビロウの葉を巻き、ボゼマラと呼ばれる棒を持ち、女性や子どもたちを追いかけわす。

トシドン〈鹿児島県薩摩川内市下甑島〉大晦日の夜の来訪神行事。青年たちが鼻の長い仮面や、シュロやソテツのマントでトシドンとなり、集落の3〜9歳の子どもたちがいる家を3体で訪問する。悪い行いを戒め、良いことは褒めて元気づけ、新しい年への誓いを立てさせるという。

パーントゥ〈沖縄県宮古島市平良島尻〉旧暦9月の泥を塗る奇祭。仮面を被り頭にはススキの呪具を、体にはつる草を巻きつけて、体中に井戸に沈殿した強烈な異臭を放つ泥を塗りたくったパーントゥが、神聖な井戸ンマリガーに現れる。無病息災や厄除けの意味を持つとされる。

古より人類は、幾度も疫病の脅威にさらされてきましたが、我々は祝祭(祭り)と、その時間的・空間的中心に現れるまれびと(来訪神)を信仰することにより、それらを乗り越える経験を重ねてきました。感染症パンデミックにより、不可避的に閉ざされた関係を強いられている現在だからこそ、改めてまれびとと祝祭に目を向け、これら根源に立ち返ることが、現状を打ち破るヒントになるのではないかと考えます。

異物としてもたらされたものを取り除いて欲しい時、五穀豊穣を願い祈る時…人間はヒトではないものの助けを借りる。このヒトではない「異形の者」に強烈に惹かれる。神とか鬼とか。

まれびと=歳神=来訪神。人間を超えた存在。

人は毎瞬「選択」しながら生きている。私はこんな風に考える。右の道を選んだとして…自分が今ここにいると存在確認できるのは右しかなくて、でも意識の中心を右に置いている自分は感知できないだけで、左を選んだ自分も同時に存在している。無数の自分が同時存在している。超人、即ち神とか鬼と呼ばれる者は、その並列する自分を移動できる者たちなのかと。

なぜか世界が反転していた資料。世界の雛型である日本、龍の国土を持つ日本列島。新しい時代の幕開けかな。

淡路島は、イザナギとイザナミが大海原を矛でかきまわし、矛先から滴り落ちた塩の雫が凝り固まった「おのころ島」だといわれています。淡路島が反転したのが琵琶湖?俯瞰すると面白いね。

思い出すのが、2015年に銀座メゾンエルメス フォーラムで開催された「Soleil Noir」 ローラン・グラッソ展

もうねこの展示、私の頭の中で形にならなかったものが「こういうことでしょ」ってドン、と目の前に置かれた感じでした。

グラッソは、15~16世紀のフランドル絵画やルネサンス以前のイタリア絵画の様式と技法を用いて、当時ほぼ描かれることのなかった天体現象(日食、オーロラ、隕石など)を描き、私たちが認識している現実や時間に違和感を引き起こします。

この展示では、日本における超常的な出来事や江戸時代の伝説などを取り上げ制作された作品が並んでいました。

「信貴山縁起」の空飛ぶ鉢?

「信貴山縁起」に出てくるのが、居ながらにして鉢を飛ばす術を体得した信貴山に住む命蓮。醍醐天皇も加持祈禱によって癒やしています。命蓮の霊力凄い!

グラッソの鉢は、1803年に常陸地方の海岸に空飛ぶ円盤のような形の物体が打ち上げられたという伝説を元にしたもの。

「信貴山縁起」の命蓮を思う時、浦島太郎が浮かぶ。命蓮も浦島もいつ亡くなったのか不明。『日本書紀』に雄略朝二十二年(西暦478年)に発ち、『水鏡』に天長二年(825年)に帰ってきたという記述がある浦島。347年ぶりに帰ってきた浦島って…。不老不死? まれびとと同様、不老不死って時空間を超える者なのかも。

Laurent Grasso, « Soleil noir » at Le Forum, Tokyo

そしてもうひとつ、2016年の「YÔKAÏNOSHIMA」 シャルル・フレジェ展

ヨーロッパ各地の伝統的な祝祭の儀式に登場する「獣人(WILDER MANN ワイルドマン)」の姿を収めているフランスの写真家、シャルル・フレジェ。

ヨーロッパ全土に残る冬の祝祭には、日本の歳神の文化とも共通点が見られることから、日本列島58ヶ所の取材し、神や鬼たちの姿をに収めた「YÔKAÏNOSHIMA」。

YÔKAÏNOSHIMA by Charles Fréger

人間は自然の一部。自然と境界線を引いた時から、私たちが持っていた能力が衰えてきたのかもしれない。神とか鬼とか、超人と呼ばれるような能力は、超古代では人は当たり前に持っていたんだろう。仮面を被り、獣になり、自然と一体化したようなスタイル。その奥に潜むのは記憶。

WILDER MANN by Charles Fréger

 Charles Fréger, “Yôkaïnoshima” at Le Forum, Tokyo

ああ、だから私は「歩く動植物図鑑」になりたいのかー花鳥風月、森羅万象。(記事「歩く動植物図鑑になりたい③〜ヴァレンティノの ”驚異の部屋” へようこそ!」)

Alexander McQueen Spring 2011

Alexander “Lee” McQueen Spring 2010


Valentino pre-Fall 2015
Valentino pre-Fall 2014

ということで、時空を超えてやって来るヒトではないまれびと(来訪神)。それを深いところで信じ続けている私たち日本人。ザワザワと記憶のスイッチが入るような展示を見に是非。日本橋高島屋の小さな展示室ですが、密度高い空間です。

まれびとと祝祭ー祈りの神秘、芸術の力―

展示期間:2022年3月2日(水) - 8月21日(日)

開館時間:11:00~19:00

休館日月・火曜日

入館料:無料

展示場所:高島屋史料館TOKYO 4階展示室
(東京都中央区日本橋2-4-1)

コメントを残す